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福岡高等裁判所 昭和25年(ネ)317号 判決

福岡県田川郡金田町九百二十四番地

控訴人

倉石正夫

右訴訟代理人弁護士

大家国夫

田川市西区西本町

被控訴人

田川税務署長

甲斐徹三

右指定代理人

大蔵事務官

荻野登志男

右当事者間の昭和二十五年(ネ)第三一七号贈与税年賦延納確認並びに同取消処分取消請求控訴事件について当裁判所は次の様に判決する。

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の控訴人に対する昭和二十四年一月三十日決定の贈与税金五十一万四千二百二十五円の内金四十万円については控訴人は同年三月五日の控訴人と被控訴人間の公法上の契約に依り、昭和二十五年から昭和二十八年まで毎年二月二十八日に金十万円宛年賦延納する権利のあることを確認する。被控訴人が昭和二十四年十月二十五日になした右贈与税年賦延納許可の取消処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人に於て「(一)国家機関は国民の個人個人の共通の事務を処理する事務員であり租税はその費用の取立である。その費用も議会で国民の代表が取決めた一種の契約である。又国家と国民との間の服従関係といつても国民の代表が定めた契約である法律を守るということに過ぎず特別に国家に固有の権力がある訳ではない。これが民主主義の原理である。(二)従つて高度の契約である法律に一々規定がなくとも、これに反しない限り個人と税務署長との間に契約の成立することを禁じなければならぬという法理はない。又実際にも贈与税に限らず所得税に於ても、延納を認め又は一部免除を認めていること並びに、今日税の延納が認められなかつたならば、中小企業の大半は即日破産する運命にあるが、それが税法に規定のない延納によつて尚残存していることは公知の事実である。(三)又税務署長に延納の許可権がないから、延納の処分は権限外であつて無効であると云うのは、事実を無視することの甚しいものである。元来無効を来す権限外の行為というのは当該行為が禁止されているか、又は事柄自体が権限外の場合でなければならない。(例えば警察官が税金について行為をしても無効である。)然し贈与税の賦課並びに徴収権者である税務署長がその賦課徴収の方法について契約又は処分をなすことは、決して無効となるべきではない。又権限外の行為でもない。若し然らざれば国民は安心して相手にすることが出来ないことになる。(四)法律は元来本質上高遠な空理空論によつて解せらるべきではなく、事実に即し公平を主眼として解せらるべきである。而して本件に於いて控訴人には何等の過失もないのである。」と述べた外は、いずれも原判決書当該事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所も亦原判決書記載の理由と同一の理由により、控訴人の本訴請求を失当と認めるからここに右摘示理由を引用する。控訴人の当審における主張によつても右判定を左右することは出来ない。

よつて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文の様に判決する。

(裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 森田直記 裁判官 中園原一)

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